第1章 礼文磯 12 カッカを迎えに Posted on 2017年7月10日 1943年(昭和18年)6月10日の午後。 克義、ハレ、潔、ハマ子の4人が、約5キロ離れた乳呑路まで歩いていた。 「抱っこ、抱っこ」 3歳のハマ子がすぐせがむが、ハレが叱りとばして引っ張っていく。 10日ぶりで...
第1章 礼文磯 11 春 Posted on 2017年7月5日 1943年(昭和18年)4月。雪も流氷もまだあるが、礼文磯国民学校も新学期が始まった。潔は2年に、ハレは4年に、伸義は高等科の2年に、それぞれ進級した。 しかし6年生の克義は6年生のままだった。初等科の中では飛び級は...
第1章 礼文磯 10 冬の日 Posted on 2017年6月29日 1943年(昭和18年)1月下旬のある晩。 「さあ、みんな行くよ」 はなが子どもたちに号令をかけた。 良雄から潔まで、男はみんな服を着込み、頭には帽子や手ぬぐいをかぶり、手には軍手やゴム手袋、足は長靴を履いている...
第1章 礼文磯 9 年越し Posted on 2017年6月20日 12月27日、潔ははなと買い物に出た。 年越しの準備のため、毎年この日にはなは買い物に出かける。はなは背中に澄子を、潔は空のリュックを背負い、2人とも吉五郎の作った長靴を履いて小屋を出た。馬車が通って轍になっている雪...
第1章 礼文磯 8 雪と氷 Posted on 2017年6月5日 10月いっぱいかかって昆布の出荷が終わり11月に入ると、吉五郎は土間の片隅に積んであった俵を引っ張り出した。米などが入っていたものを1年間、とっておいたものだ。 それを丁寧にほぐしていくと一山の藁になった。 次は克...
第1章 礼文磯 7 文明が来た Posted on 2017年5月17日 1942年(昭和17年)の秋、礼文磯国民学校では極秘のプロジェクトが進行しつつあった。 スタートしたのは9月17日。夏休みが終ってしばらくしたころだ。 校長が高等科の十数人を集めた。その中には1年生の伸義がいる。...
第1章 礼文磯 5 真木本家 Posted on 2017年4月26日 実はもう1人、近所には潔と同世代の子供がいた。1年上の真木尚武だ。尚武は真木午之助の直系の孫だった。裕福で、着ている服も新品、カバンも新品だった。潔たちと遊ぶこともあったが、自分が一番でないと気が済まない。何でも負ける...
第1章 礼文磯 4 子どもたち Posted on 2017年4月20日 「あんちゃ、ちょっとこれ聞いててくれよ」 ある日、6年生の克義が良雄に頼んだ。 「じんむ、すいぜい、あんねい、いとく…」 克義はすらすらと暗唱していく。 「…にんこう、こうめい、めいじ、たいしょう、きんじょう。...
第1章 礼文磯 3 岩手と石川 Posted on 2017年4月16日 夏のある晩、酔って機嫌のいい吉五郎がはなに鉛筆と紙を持って来させた。 海が荒れて翌日も昆布漁ができそうにない夜だ。夕飯が済んでもすぐ寝る必要もなく、ランプの明かりの下、みんな揃って食卓についていた。 吉五郎は鉛筆の...
第1章 礼文磯 2 海の幸 Posted on 2017年4月15日 朝6時。潔はいつものように目が覚めた。 南向きの窓ガラスから光が差し込み、部屋はもう明るい。一緒に寝ていた兄たちは誰もいない。奥の吉五郎もはなもいない。 白に黒の斑の年取った猫が、脇をゆっくり歩いていく。 潔は近...
第1章 礼文磯 1 9人 Posted on 2017年4月14日 1942(昭和17年)7月10日。 爺爺岳の南西側の裾野にある留夜別村チフンベツの老登山神社には、朝9時ぐらいから人が続々と集まって来た。 今日は年に一度の例祭の日だ。神輿なども出るが、みんなの目当て...